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京都地方裁判所 昭和47年(わ)1216号 判決

主文

被告人を懲役一年二月に処する。

未決勾留日数中五〇日を右刑に算入する。

この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。

押収してある自動車運転免許証一通(昭和四八年押第一四号の一)の偽造部分を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四七年二月五日午前零時五〇分ころ、大津市膳所二丁目四の一三先路上において、普通乗用自動車(滋五五そ五〇二一号)を運転し、

第二  さきに、昭和四三年一〇月一二日付で大阪府公安委員会から交付を受けていた同委員会作成名義の自己に対する普通自動車運転免許証(免許証番号第六二六八四三〇一七五〇―〇一三二号)が、同四六年一〇月一一日限りで有効期間の満了により失効したので、同免許証を有効なもののように改ざんしようと企て、同四七年三月上旬ころ、当時被告人が居住していた大津市坂本穴太町四八二番地京和重機宿舎の自室において、行使の目的で、ほしいままに、右免許証交付欄に「昭和43年10月12日」と記載されている「3」の文字を安全剃刀の刃で切り抜き、そのあとに有効期限欄に「昭和46年10月11日」とある中から切り抜いた「6」の文字を貼付して「46年」とし、右有効期限欄の「6」のあとに運転練習欄の中から切り抜いた「9」の文字を貼付して「49年」とし、さらに生年月日欄の中から切り抜いた「1」の文字を免許証の種類欄の「自二」の上部に貼付して、あたかも自己が前記公安委員会から同四九年一〇月一一日まで有効な普通自動車ならびに自動二輪車の運転免許証の交付を受けたもののように作り出し、もつて、同公安委員会の署名と印章を使用して、その作成名義の自動車運転免許証一通(昭和四八年押第一四号の一)を偽造し、同四七年四月二二日ころ、前記自室において、右の情を知らない松田忠男に対し、右偽造にかかる運転免許証を、あたかも真正に成立したもののように装つて、同人に携帯使用させるため交付して行使し

たものである。

(証拠の標目)〈略〉

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は道路交通法一一八条一項一号、六四条に、判示第二の所為のうち公文書偽造の点は刑法一五五条一項に、偽造公文書行使の点は同法一五八条一項、一五五条一項に該当するが、右偽造と行使の間には手段結果の関係があるので、同法五四条一項後段、一〇条により犯情の重いと認められる偽造公文書行使罪の刑で処断することとし、判示第一の罪の所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第二の偽造公文書行使罪の刑に同法四七条但書の制限内で法定の加重をし、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年二月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中五〇日を右刑に算入し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から二年間右刑の執行を猶予し、押収してある自動車運転免許証一通(昭和四八年押第一四号の一)の偽造部分は判示第二の公文書偽造の犯罪行為より生じた物で、かつ、偽造公文書行使の犯罪行為を組成した物であつて、何人の所有をも許さないものであるから、同法一九条一項三号、一号、二項によりこれを没収し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させない。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人が本件運転免許証を松田に交付した行為は偽造公文書行使罪にいう「行使」に該当しないと主張する。

よつて案ずるに、偽造公文書行使罪における偽造公文書の行使とは、偽造文書を真正ものとしてその効用を発揮することができるような意味において使用することをもつてすれば足り、必ずしも文書本来の用法に従つて使用することを要しないものと解すべきところ、右にその効用を発揮することができるような意味において使用したというためには、使用の相手方が当該偽造文書について何らかの意味で利害関係を有するものであることを要するものと解するのが相当である。けだし、相手方が当該文書について何らの利害関係も持たない場合には、相手方はこれを真正なものと誤信することにより、社会生活上何らかの行為に出る可能性がないのであるから、右文書はその効用を発揮する余地がないのであり、したがつて文書の真正に対する公の信頼が害されるおそれがないからである。

これを本件についてみるに、前掲各証拠によれば、被告人は、友人の松田が運転免許を取得しておらず、これを欲しがつているのを聞いて、判示偽造にかかる本件運転免許証を同人に譲り渡したとの事実が認められ、右事実によれば、相手方である松田が、右免許証の内容を真実と誤信することにより、さらに将来同免許証を事実の証明等のために第三者に呈示するなどの挙に出る可能性があつたことは容易に推測できるから、同人は同免許証につて利害関係を有するものということができ、したがつて、同人に対し同免許証を交付した被告人の行為は、偽造公文書行使罪にいう行使に該当するものというべきである。

弁護人の主張は採用できない。

よつて、主文のとおり判決する。

(森山淳哉 長谷川邦夫 鳥越健治)

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